特集:サイバーセキュリティ風土記(中国編)

中国は、日本の26倍の面積を持ち、13億人の人口を有しています。急速な経済成長を背景に国際社会での存在感を拡大しているだけでなく、インターネット人口においても世界1位を誇る中国は、今後サイバー世界においても存在感を増すことが予想されます。サイバーセキュリティについても、中国を抜きに語ることはできません。

グレートファイアウォール

ご存知の方も多いかと思いますが、中国には国家レベルのファイアウォールが存在します。グレートファイアウォールと呼ばれるこのシステムは、外部からの侵入を防ぐセキュリティ機構というよりも、コンテンツのフィルタリングを行うシステムです。香港とマカオを除く地域で運用されており、政府が不適切と判断したコンテンツはブロックされ、中国国内から閲覧できない状態になります。

ブロックされるサイトには、YoutubeやFacebookも含まれます。興味深いのは、鎖国中の日本で独自の技術が発展したように、「サイバー鎖国」とも呼べるこの政策の影響で、中国国内では独自のSNSが発展しました。例えば中国版Twitterと呼ばれている「微博」などが挙げられます。

このような情報の遮断は、企業が従業員の生産性を高め、マルウエア感染や情報漏えいなどのリスクを低減させる目的でも行われることがあります。ある意味では、グレートファイアウォールはその延長線上にあると考えることもできるかもしれません。日本や欧米の基準で見たときに、それが適切かどうかは分かりませんが、グレートファイアウォールは中国にとっては「情報セキュリティ対策」の一つなのかもしれません。

サイバー攻撃

中国は世界最大のサイバー攻撃の発信元(2014年米アカマイ社の統計では43%を占める)としても知られており、中国からのサイバー攻撃はG7でも問題となっています。良いニュースとしては、2015年には米中のサイバー合意があり、国家間での「サイバー和平」が推進されることが期待されます。もともと、大国間のサイバー攻撃はお互い様という部分もないわけではなく、相手を批判し合うよりも、「サイバー不可侵条約」を結ぶ方が効果的かもしれません。今後はこうした国家間の取り決めがサイバー空間の安全性にとって大きな役割を果たしていくことが期待できます。

その一方で、国家だでなく民間人による攻撃の方もむしろ深刻な脅威です。サイバー攻撃の背後には金銭をもらって仕事を請け負うプロのハッカー(特にロシア人ハッカー)の存在もあります。そのため、国家間の不可侵条約だけで全てが解決するわけではなく、むしろ、各国での取り組み(サイバー犯罪の取り締まりなど)が鍵を握っています。

全ての国家が足並みをそろえるのには、さまざまなハードルがあり、一筋縄にはいかないのが現状です。それでもサイバーセキュリティは、間違いなく国際社会が協働して取り組むべき課題であり、時間をかけてでも、サイバー空間の安全を高めるために、各国は努力を惜しむべきではありません。